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検証実験

【実験】クレカ積立の還元率は、信託報酬0.03%の差で消える

執筆: 公開: 約11分

クレカ積立の宣伝は、たいてい還元率の数字から始まります。1.0%、3.1%、最大6%。数字が大きいほど得に見えます。

けれど、その隣に並べて見るべき数字がもうひとつあります。信託報酬です。そしてこの2つは、そもそも効き方が違います。ポイントは積立額に1回だけ、信託報酬は残高に毎年かかります。積立を続ければ残高は元本より大きく育つので、後半はどこかで信託報酬のほうが効きはじめるはずです。

問題は、その「どこか」がいつ来るかです。計算してみると、思っているよりずっと早く来ていました。

信託報酬の差が広がると、還元率0.5%の差はどこで消えるか(万円・差0.30%まで)

還元率0.5%の差は、信託報酬0.03%で消える

10万円30積み立てる場合で計算しました。上のグラフは、還元率が0.5ポイント高いほうが、信託報酬の差がどこまで広がると負けるかを示しています。

ゼロを下回る点、つまり逆転が起きるのは信託報酬の差が0.028%のところです。0.03%です。

これは還元率の差が小さいからではありません。還元とコストでは、効き方の構造が違うからです。還元は拠出額に比例するので年数に対して直線的にしか増えませんが、信託報酬は残高に比例するので複利で開いていきます。30年のうち後半20年は、残高が拠出総額を大きく超えて動きます。

計算にはポイント側に有利な仮定を置いています。付与されたポイントは使わず、全額を同じファンドに再投資するものとしました。実際には有効期限や使い道の制約で目減りしますが、それを無視しても結果は変わりません。

「派手なカードなら違う」は成り立つか

ここで当然、こう思うはずです。0.5ポイントの差は地味なカードの話で、上位カードならもっと差がつくのではないか、と。

還元率の差を動かして、分岐点がどこまで伸びるかを見ました。

還元率の差を打ち消すのに必要な信託報酬の差(%)
還元率の差逆転に必要な信託報酬の差
0.5ポイント(0.5% → 1.0%)0.028%
1.0ポイント(0.5% → 1.5%)0.055%
2.6ポイント(0.5% → 3.1%)0.142%

還元率を6倍に上げても、必要な信託報酬の差は0.15%に届きません。

一方で、低コストのインデックスファンドと、販売会社の取り分が厚いファンドとでは、信託報酬は0.5%も1%も違います。桁がひとつ足りていないわけです。

実際に組み合わせて計算すると、こうなります。

還元信託報酬30年後
高還元・高コスト1%1%8,235万円
低還元・低コスト0.5%0.1%9,619万円

差は1,384万円です。拠出総額3,600万円に対する差としては小さくありません。

このとき受け取ったポイントの累計差は18万円しかありません。還元で多く受け取りながら、それを大きく上回る額を信託報酬で払っているという形です。

資産額の推移(万円)

宣伝される還元率は、受け取る還元率ではない

ここまでは率を額面どおりに扱ってきました。実際には、額面に届かない理由が2つあります。

条件を満たさないと0%になる

各社が掲げる還元率は、条件を満たした場合の上限値です。条件を外すと率が下がるだけでなく、0%になる設計が普通でした(2026年8月時点で各社の公表資料を確認)。

  • SBI証券・三井住友カードは年間のカード利用額で決まり、一般カードは年10万円未満、ゴールドは年10万円未満で0%
  • 松井証券は月間のショッピング利用額で決まり、一般カードは月5万円未満で付与なし
  • マネックス証券は2026年10月買付分から、カードショッピング利用額が月1万円未満だと0%になる条件が加わります

そして重要なのは、その利用額に積立自体は数えられないことです。三井住友カードのページには、こう書かれています。

「三井住友カード つみたて投資」の積立額は、カードご利用金額の集計対象となりません。

マネックスも新条件を「投信つみたて以外の」利用額と定義し、dカードも「dカード積立の年間ご利用額は年間ご利用額特典の累計対象外」としています。3社とも同じです。

つまり、積立の還元率を上げるには積立とは別に消費する必要があります。SBI証券・三井住友カードで最大の4.0%を得るには年700万円、上乗せを含めた「最大6%」には最上位カードの保有と追加条件が必要です。月10万円の積立で6%だとしても受け取りは年7.2万円で、その率を得るために求められる消費のほうがずっと大きい、という関係になっています。

年会費が還元を削る

年会費のあるカードでは、還元の一部が年会費に消えます。月10万円=年120万円の積立に対して、年会費1万円を積立の還元だけで回収するには0.833%の還元率が必要です。

年会費を積立の還元だけで回収するのに必要な還元率(%)

たとえば還元率3.1%・年会費29,700円のカードなら、2.475%が年会費に消えて手元に残るのは実効0.625%です。年会費無料で0.5%のカードとの差は、年1,500円ということになります。

もちろん上位カードには空港ラウンジや保険など他の特典もあるので、年会費の全額を積立に負わせるのは一面的な見方です。ここで答えているのは「積立の還元だけで年会費を回収できるか」という問いに限られます。

囲い込みには4つの型があった

条件の付け方を各社の公表資料で並べると、4つに分かれました。どれが良いという話ではなく、構造が違うという話です。

1. カードの利用額を条件にする。 上に書いたとおりで、積立は数えられません。読者に求めているのは投資ではなく消費です。

2. 保有コストの高いファンドに厚く還元する。 楽天証券は、ファンドの代行手数料が年0.4%以上かどうかで還元率を変えています。一般の楽天カードだと0.4%以上のファンドで1.0%、0.4%未満で0.5%です。代行手数料は信託報酬の一部(販売会社の取り分)なので、還元が厚いほうを選ぶことが、そのまま高い保有コストを選ぶことになります。この記事の計算が、そのまま当てはまる形です。

3. NISA口座に限って優遇する。 マネックス証券のdカード積立は、上位カードではNISA口座に限り段階制が外れます。dカード GOLDは10万円まで一律1.1%、dカード PLATINUMは一律3.1%(入会初年度)。課税口座では段階制のままです。

4. グループ全体で囲う。 三井住友銀行のページには、SBI証券のNISA口座の残高に応じて、コンビニや飲食店でのカード利用の還元率が上がる仕組みが載っています。他の3つが「投資 → ポイント」の向きなのに対して、これは「投資残高 → 日常消費の還元率」という逆向きです。

4つに共通しているのは、還元率が「そのカードを使い続けること」に結びつけられている点です。ポイントは投資への対価ではなく、関係を続けることへの対価として設計されています。

自分の条件で試す

自分の数字で試す

実験

本文の数値は固定です。ここで変えても記事の結論は変わりません。「記事の前提」と「あなたの条件」を並べて表示します。

1%(前提)
1%(前提)
0(前提)
項目記事の前提あなたの条件
高還元・高コスト側8,235万円8,235万円
低還元・低コスト側(還元0.5% / 信託報酬0.1%)9,619万円9,619万円
低コスト側が上回る額1,384万円1,384万円
年会費を引いたあとの実効還元率1%1%

月10万円・30年・コスト控除前の年率リターン 6% で固定。ポイントは全額を同じファンドに再投資する前提です(ポイント側に有利な仮定)。年会費は毎月 1/12 ずつ差し引いています。

還元率・信託報酬・年会費を変えて確かめられます(本文の数値は還元1.0%・信託報酬1.0%・年会費0円のまま固定です)。積立額や期間も含めて動かしたい場合は積立実験室へ。

この記事から言えること

  • 還元率と信託報酬は、比べる前に効き方が違う。 還元は拠出額に1回、信託報酬は残高に毎年。30年ではこの差が決定的になります
  • 還元率0.5ポイントの差は、信託報酬0.028%の差で消える。 還元率を6倍にしても、必要な差は0.142%までしか伸びません
  • 宣伝される還元率は上限値。 条件を外すと0%になる設計が普通で、しかも積立自体はその条件に数えられません
  • 年会費のあるカードは実効率で見る。 年会費1万円あたり0.833%ぶんが消えます
  • 見るべき順番は、信託報酬が先、還元率が後。 逆にすると、還元で受け取る額の何倍もを信託報酬で払うことになりえます

この記事の限界

  • 各社の優劣は評価していません。 当サイトは金融サービスに順位を付けない方針です(運営者情報)。ここで扱っているのは条件の構造であって、どのカードを選ぶべきかではありません
  • 条件は改定が頻繁です。 本文の各社の条件は2026年8月25日時点で各社の公表資料を確認したものです。この種の条件は予告なく変わるため、実際に申し込む際は必ず各社の最新のページをご確認ください
  • Olive限定上乗せプランの率には触れていません。 2026年5月買付分から始まっていることは三井住友銀行の公表資料で確認できましたが、上乗せ率と残高の基準は当サイトから原典を確認できなかったため、記載していません
  • 信託報酬の水準は想定値です。 「還元1.0%・信託報酬1.0%」「還元0.5%・信託報酬0.1%」という組み合わせは、代行手数料の水準で還元率が変わる仕組みを踏まえた例であって、特定の商品の実際の値ではありません
  • リターンは一定としています。 コスト控除前の年率6.0%が30年続く前提の決定論的な計算です。実際の相場は上下し、ばらつきの影響は計算方法の解説を参照してください
  • 税金を考慮していません。 NISA口座を前提としており、課税口座では譲渡益への課税が別途かかります
  • ポイントの価値を1ポイント=1円としています。 交換先によっては下回ります
  • 年会費は月割りにしています。 実際の請求は年1回です。還元と年会費のどちらが大きいかを見る目的なので、結論の向きは変わりません

出典

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この記事は が執筆しました。数値は当サイトのシミュレーターで実際に計算したもので、出典と前提は本文中に明記しています。誤りにお気づきの際はお問い合わせからご指摘ください。

本記事は情報提供・教育を目的としたものであり、特定の金融商品の推奨や投資助言ではありません。 投資判断はご自身の責任で行ってください。詳細は免責事項をご確認ください。