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検証実験

【実験】4%ルールは、どの30年でも通用したか — 米国株155年の全開始月で試す

執筆: 公開: 約12分

「資産の4%ずつなら、取り崩しても長持ちする」。早期リタイアの話でも、退職後の生活設計でも、まずこの経験則が出てきます。ではそれは、実際に起きた相場で確かめると本当だったのでしょうか。

米国株の155.5ぶんの実績を使い、取り崩しを始める月を1ヶ月ずつずらして1,507通りの30年を全部試しました。資産が尽きなかったのは97.88%です。経験則はおおむね持ちこたえました。

ただし、この数字をそのまま自分に当てはめる前に、知っておいたほうがいいことが3つあります。失敗した経路がどこに固まっているか期間を延ばすと何が起きるか、そして、当サイトの他の記事が同じ4%についてまったく違う数字を出している理由です。

取り崩し率と、資産が尽きなかった割合

4%ルールと、この記事の問いの立て方

4%ルールの出どころは2つの研究です。ウィリアム・ベンゲンが1994年に、退職後の取り崩し率を過去の実績で検証し、続いてトリニティ大学の3人の研究者が1998年に、より広い条件で同じことを調べました。

どちらも過去の実績を、開始年をずらしながら何度も回すという形をしています。ある1つの未来を予想するのではなく、「これまでに存在したすべての30年で試したら、何割が生き残ったか」を数えるのです。

この記事も同じ形にしました。違うのは期間と刻みです。トリニティ・スタディが使ったのは1926年から1995年までの70年間で、30年の窓は41通り取れました。当サイトが持っている米国株のデータは1871年からなので、月単位で刻むと1,507通りになります。

条件

項目内容
対象米国株(配当は再投資、物価調整後、米ドル建て)
期間155.51,866ヶ月
配分株式100%。債券や現金は混ぜていない
取り崩し方初期資産の一定割合を12等分し、毎月はじめに取り崩す
物価取り崩す金額は物価に合わせて増やす(=実質で一定)
開始月1ヶ月ずつずらして全部試す
成功の定義期間の最後まで、予定した額を一度も減らさずに取り崩せたこと
税・手数料考慮しない

「毎月はじめに取り崩す」としたのは、生活費として使うお金だからです。年に一度まとめて引き出す形にすると、その年の相場次第で結果が動きすぎます。

結果 — 30年なら、ほぼ通用した

試した1,507通りのうち、資産が尽きたのは32通りでした。成功率にして97.88%です。

生き残った側の残高も見ておく価値があります。30年間4%ずつ取り崩し続けたあとに残っていた資産は、中央値で開始時の3.17でした。取り崩しながら、資産のほうはむしろ増えていたということです。

これはトリニティ・スタディの結果ともよく合っています。同研究は株式100%・30年・物価調整後の4%取り崩しで成功率95%を報告しており、当サイトの97.88%とほぼ重なります。期間も刻みも違う計算で近い数字が出たことは、少なくとも計算が的外れではないことの傍証になります。

背景にあるのは、米国株のこの期間の実質年率が7.1%あったことです。年4%引いても、平均的には増えるほうが速い。4%という水準は、この収益率を前提にして選ばれています。

注意点1 — 失敗は散らばっていない。2つの時期に固まっている

尽きた32通りがいつ始まったのかを見ると、この経験則の本当の弱点がわかります。失敗はまんべんなく散らばってはいません。2つの塊に固まっています。

1つ目は1929年前後。2つ目は1960年代後半です。それ以外の年に始めた人は、155.5を通じて一人も尽きていません。

しかも、この2つは失敗の仕方が違います

取り崩しを始めた月何が起きたか結果
1929年9月直後に大恐慌16.5で尽きた(1,946
1966年1月十数年の停滞と高インフレ26.67で尽きた(1,992
1982年1月直後から長い上昇30年後に開始時の6.76

1929年9月に始めた人は、暴落に直撃されて16.5しかもちませんでした。分かりやすい失敗です。

一方、1966年1月に始めた人は26.67もちました。30年まであと3年ちょっとというところで尽きています。派手な暴落があったわけではなく、株価が長く伸び悩むあいだにインフレが取り崩し額を押し上げ、じわじわ削られた結果です。こちらのほうが、途中で気づきにくいぶん厄介かもしれません。

そして1982年1月に始めた人は、同じ4%を30年引き続けて、資産を6.76にしました。途中でいちばん減ったときでも開始時の0.91までしか下がっていません。

同じルール、同じ30年、違うのは始めた月だけです。ゼロになるか6倍以上になるかを分けたのは、本人の判断ではありませんでした。

始めた年ごとの、30年後に残った資産(開始時=1)

グラフの谷が、この2つの時期にあたります。取り崩し率を5%に上げると谷は深く広くなり、3%に下げるとどの年でも水面から出ます。

これが「シーケンス・オブ・リターンズ・リスク」と呼ばれるものです。積立期には、同じリターンが来る順番を入れ替えても最終額は変わりません。ところが取り崩し期は違います。早い時期に下げが来ると、安くなった資産を売って生活費に充てることになり、回復するはずだった元手が減ってしまうからです。同じ論点を当サイトの想定値で見た実験は取り崩し期の暴落リスクにあります。

注意点2 — 早期リタイアなら、30年では足りない

4%ルールが検証されたのは30年です。これは65歳で退職する人の想定です。50歳で、あるいは45歳でリタイアするなら、資産に働いてもらう期間はもっと長くなります。

取り崩す年数4%での成功率3%での成功率5%での成功率
30年97.88%100%83.68%
40年94.88%
50年92.34%99.84%71.35%

期間を50年に延ばすと、4%の成功率は97.88%から92.34%に下がります。下げ幅そのものは小さく見えるかもしれません。ただ、5%まで上げたときの落ち方を見てください。30年なら83.68%ですが、50年では71.35%です。期間が延びると、率のわずかな違いが効きはじめます。

成功率を99%以上に保てる最大の取り崩し率を探すと、こうなりました。

取り崩す年数99%を保てる最大の率
30年3.85%
40年3.65%
50年3.5%

30年でも3.85%で、4%には届いていません。4%は「まず失敗しない率」ではなく、「97.88%の率」です。この違いは、必要資産額に直すと大きく響きます。年間生活費300万円なら、4%での必要資産は7,500万円です。3.5%で見積もるなら、その分だけ多く積む必要があります。各タイプの必要資産額はFIREの種類を整理する記事に、条件を細かく動かせる道具はFIRE実験室にあります。

注意点3 — コストは、期間が長いほど深く効く

ここまでの計算にはコストを入れていません。実際には信託報酬が毎年かかります。

毎年のコスト30年の成功率50年の成功率
0%97.88%92.34%
0.1%97.61%91%
1.0%93.1%77.82%

年0.1%——低コストのインデックスファンドの水準——ならほとんど影響しません。年1.0%になると、30年で93.1%、50年では77.82%まで落ちます。

50年のほうが落ち方が大きいことに注目してください。コストは残高に対して毎年かかるので、期間が延びるほど累積します。積立期についての同じ話はコストが30年で削る額にあります。

当サイトの他の記事と数字が違う理由

ここが、この記事でいちばん正直に書いておきたいところです。同じ「4%で取り崩す」について、当サイトは3つの違う数字を出しています。

記事計算のしかた条件結果
取り崩し期の暴落リスク想定値で1本だけ計算25年・暴落を1回入れる完走する
FIREの種類を整理する想定値でモンテカルロ5,000回40年・バランス型成功率56%
この記事実際に起きた並び順40年・米国株100%成功率94.88%

想定値で引いた56%に対して、実績をなぞると94.88%。同じ40年・同じ4%で、これだけ離れます。理由は3つあります。

1つ目は、持っている資産が違うこと。 FIREの記事はバランス型(期待リターン5.5%)を想定しています。この記事は米国株100%で、実際の実質年率は7.1%ありました。前提とする収益率が違えば、成功率は当然違います。

2つ目は、リターンの引き方が違うこと。 モンテカルロは毎月のリターンを互いに独立に引きます。実際の相場はそうではなく、大きく下げたあとには戻る傾向がありました。取り崩し期にはこの「戻り」が効くので、実績をなぞるほうが成績は良く出ます。

3つ目——そしてこれがいちばん重い——のは、米国を選んでいること。 米国株はこの150年、世界でもっともうまくいった市場のひとつです。同じ期間に、株式市場が一度閉じた国も、価値がほぼ消えた国もありました。「米国株の実績で試したら大丈夫だった」は、「どの国の株でも大丈夫」を意味しません。

どちらが正しいという話ではありません。実績をなぞる計算は楽観に寄り、独立な乱数を引く計算は悲観に寄ります。片方だけを見て安心するのが危ないのであって、幅があること自体が答えです。当サイトのモンテカルロの中身は計算の仕組みに書いています。

自分の条件で試す

自分の数字で試す

実験

本文の数値は固定です。ここで変えても記事の結論は変わりません。「記事の前提」と「あなたの条件」を並べて表示します。

4%(前提)
30(前提)
0%(前提)
項目記事の前提あなたの条件
条件4%・30年・コスト0%4%・30年・コスト0%
資産が尽きなかった割合97.9%97.9%
期末に残った資産(中央値)3.17倍3.17倍
最も早く尽きたケース16.5年16.5年
試した開始月1,507通り1,507通り

「記事の前提」の列は4%・30年・コスト0%で固定です。米国株100%・物価調整後・米ドル建て・税は考慮していません。期間を延ばすほど、取れる開始月の数は減ります。

取り崩し率・年数・コストを変えて確かめられます(本文の数値は4%・30年・コスト0%のまま固定です)。期間や配分も含めてもっと自由に動かしたい場合はバックテスト実験室へ。

この記事から言えること

  • 30年なら、4%はおおむね通用した。 ただし「まず失敗しない」水準ではなく、97.88%の水準です
  • 失敗したのは2つの時期だけ。 大恐慌の直前と、1960年代後半です。裏を返せば、失敗するかどうかは始めた時期でほぼ決まっていました
  • 期間が延びると余裕が減る。 早期リタイアで50年を見込むなら、4%は前提を確かめ直す必要があります
  • 率を下げる効果は大きい。 3%に下げれば、155.5のどの30年でも尽きませんでした
  • 一度決めた率を守り続ける必要はない。 ここで計算しているのは「何があっても機械的に取り崩し続ける」場合です。実際には相場が悪い年に取り崩しを少し減らすだけで、結果は大きく変わります

この記事の限界

  • 対象は米国株のみです。 日本株も、日本以外の先進国株も含みません。米国はこの期間に成功した市場であり、同じ結果が他の市場で成り立つ保証はありません。この点は結果の解釈を大きく左右します
  • 円建てでは計算していません。 日本の消費者物価の長期系列を当サイトが持っていないためです。物価調整をしないまま円建てで計算すると、「物価が上がっても生活費を増やさない人」を計算することになり、4%ルールの定義から外れます
  • 月単位です。 日単位の株価指数は利用条件の制約で当サイトが持てません
  • 税金・売買手数料は考慮していません。 実際には取り崩すたびに課税されます(日本の場合の税率は投資の利益にかかる税金、非課税枠は新NISAの仕組みを参照)。NISAの枠を超える部分では、ここでの成功率より悪くなります
  • 公的年金を入れていません。 実際の退職後の家計では、取り崩しはすべての支出を賄うものではありません
  • 株式100%です。 債券や現金を混ぜた場合は計算していません。トリニティ・スタディは混ぜた場合も調べており、そちらも参考になります
  • 開始月の重なりについて。 1,507通りの30年は互いに大きく重なっているので、独立した1,507回の試行ではありません。成功率は確率の推定値ではなく、「過去に存在した開始月のうち何割か」です
  • 過去にこうだったというだけです。 バックテストは「当たったように見える」ぶん、想定値のシミュレーションより慎重に読む必要があります

出典

  • Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard, Daniel T. Walz, "Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable," AAII Journal, February 1998(PDF) — いわゆるトリニティ・スタディ。株式100%・30年・物価調整後4%での成功率95%は同誌 Table 3 による
  • William P. Bengen, "Determining Withdrawal Rates Using Historical Data," Journal of Financial Planning, Vol. 7, No. 4, October 1994, pp. 171–180 — 4%ルールの原典。当サイトからリンクできる公開全文を確認できなかったため、書誌情報のみ記載します
  • Robert J. Shiller, U.S. Stock Markets 1871-Present and CAPE Ratio(shillerdata.com) — 米国株の月次データ
  • 取り崩し期の暴落リスク — 同じ論点を当サイトの想定値で見た実験
  • FIREの種類を整理する — 必要資産額と、モンテカルロによる成功率
  • 「稲妻が輝く瞬間」は本当か — 同じ米国株155年のデータを使った別の検証
  • データの透明性レポート — 当サイトが使っているデータとその根拠

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この記事は が執筆しました。数値は当サイトのシミュレーターで実際に計算したもので、出典と前提は本文中に明記しています。誤りにお気づきの際はお問い合わせからご指摘ください。

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