研究レポート/手法解説

積立実験室の計算方法 — モンテカルロ法と新NISA枠配分の仕組み

公開: 2026-07-24約10分

積立実験室は、毎月の積立投資を続けたとき将来の資産がどう推移しうるかをシミュレーションする無料ツールです。この記事では、その計算の中身をすべて公開します。

シミュレーターの結果を信頼できるかどうかは、「中で何をしているか」が見えるかどうかで決まると考えているためです。計算方法だけでなく、この計算にできないこと(限界)も正直に書きます。

全体の流れ

積立実験室は、設定を変えるたびに次の4ステップを実行しています。

  1. ポートフォリオの期待リターンとリスクを計算する(ポートフォリオ理論)
  2. 将来の資産推移を1万回シミュレーションする(モンテカルロ法)
  3. 拠出額を新NISAの枠に割り当てる(新NISA枠配分ロジック)
  4. 結果を集計する(期待値・信頼区間・節税効果)

計算はすべてお使いのブラウザの中で実行されます。入力した金額や設定がサーバーに送信されることはありません。

ステップ1: ポートフォリオの期待リターンとリスク

期待リターンは「配分の加重平均」

各資産クラスには期待リターン(年率)を設定しています。ポートフォリオ全体の期待リターンは、資産配分による加重平均です。

たとえば「先進国株式(期待リターン7.0%)を60%、国内債券(同2.0%)を40%」なら:

7.0%×0.6+2.0%×0.4=5.0%(年率)7.0\% \times 0.6 + 2.0\% \times 0.4 = 5.0\% \text{(年率)}

リスクは相関を考慮した「ポートフォリオ分散」

リスク(値動きの大きさ=標準偏差)は、単純な加重平均ではありません。資産同士は完全には連動しないため、組み合わせるとリスクが割り引かれます。これが分散投資の効果です。

計算には現代ポートフォリオ理論の分散公式を使っています:

σp2=ijwiwjσiσjρij\sigma_p^2 = \sum_{i} \sum_{j} w_i \, w_j \, \sigma_i \, \sigma_j \, \rho_{ij}

ここで wiw_i は資産 ii の配分比率、σi\sigma_i は資産 ii のリスク(標準偏差)、ρij\rho_{ij} は資産 iijj の相関係数(1-111)です。ポートフォリオ全体のリスクは、この分散の平方根 σp\sigma_p です。

たとえば国内株式と国内債券の相関はマイナス(-0.1)に設定しているため、両方を持つとポートフォリオ全体のリスクは各資産のリスクの加重平均より小さくなります。

期待リターン・リスク・相関の数値はどこから来たか

これらの数値は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が基本ポートフォリオ策定時に公表している推計値などの公的資料を参考にした、当サイト独自の想定値です。特定の資料の転載ではなく、将来を保証するものでもありません。

使用しているすべての数値と出典はデータの透明性レポートで公開しています。

ステップ2: モンテカルロ・シミュレーション

なぜ「1本の線」ではなく1万回試すのか

単純な複利計算(毎年きっかり5%増える前提)では、「運が悪かった場合にどうなるか」が分かりません。実際の市場は上下にぶれるため、同じ期待リターンでも結果には大きな幅が出ます。

そこで積立実験室は、乱数を使って市場の値動きを1万通り生成し、その分布を見る「モンテカルロ・シミュレーション」を採用しています。

具体的な手順

1万回のシミュレーションそれぞれで、次の処理を繰り返します。

  1. 0年目: 初期投資額を目標配分どおりに各資産へ投入した時点のスナップショット
  2. 1年目以降: 毎月、積立額を目標配分どおりに各資産へ拠出してから、その月のリターンを資産ごとに適用
  3. リバランス設定が有効な場合は、設定した頻度・乖離幅・調整割合に従って目標配分へ戻す(無効な場合は、成長率の差による配分のドリフトがそのまま反映される)

資産 ii の月次リターンは対数正規分布に従う乱数として生成します。年率の期待リターンを ryr_y、年率リスクを σy\sigma_y とすると:

rm=(1+ry)1/121,σm=σy12r_m = (1 + r_y)^{1/12} - 1, \qquad \sigma_m = \frac{\sigma_y}{\sqrt{12}}

月次期待リターンは12ヶ月の複利でちょうど年率 ryr_y になるよう幾何平均で換算しています(単純に12で割ると複利効果の分だけ年率が想定より高くなってしまうためです)。

そして毎月のリターン RR を次の式で生成します:

R=eμ+σmZ1,μ=ln(1+rm)σm22R = e^{\mu + \sigma_m Z} - 1, \qquad \mu = \ln(1 + r_m) - \frac{\sigma_m^2}{2}

ここで ZZ は標準正規分布に従う乱数です。資産ごとの ZZ は独立ではなく、想定相関行列をCholesky分解して得た変換をかけることで、資産間の相関を反映した連動を持たせています(株式同士は似た方向に、株式と債券はほぼ無関係に動く、といった構造が乱数にも現れます)。

対数正規分布を使うのは、資産価格がマイナスにならない・複利で増減するという性質に合うためで、金融工学で標準的に使われるモデルです。

結果の読み方: 期待値と信頼区間

1万回の結果を年ごとに集計し、チャートに表示しています。

表示意味
期待資産額(中央の線)1万回の平均値
90パーセンタイル(上側の帯)上位10%に入る好調ケース
10パーセンタイル(下側の帯)下位10%の不調ケース。「90%の確率でこれ以上」という目安(VaR90%に相当)
25〜75パーセンタイル中央半分のケースが収まる範囲

下側の線を見ることが重要です。 積立投資の計画は「期待通りに増えた場合」ではなく「不調だった場合に耐えられるか」で立てるべきだからです。

ステップ3: 新NISAの枠配分ロジック

口座タイプで「新NISA」を選ぶと、毎年の拠出額を2024年開始の新NISA制度のルール通りに割り当てます。

年間上限生涯上限
つみたて投資枠120万円合算で1,800万円
成長投資枠240万円うち1,200万円まで
(超過分)特定口座(課税)へ

割り当ての優先順位は次の通りです。

  1. まずつみたて投資枠(年120万円まで)
  2. 収まらない分は成長投資枠(年240万円まで)
  3. それでも収まらない分は特定口座
  4. 生涯投資枠1,800万円を使い切った後の拠出はすべて特定口座へ

現金・預金への配分はNISA枠の対象外として扱います(NISA口座で現金は保有できないため)。

節税効果の計算

NISA口座の含み益には、特定口座なら課される20.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 住民税5%)の税金がかかりません。積立実験室の「NISA節税効果」は次の式で計算しています:

NISA節税効果=NISA口座の含み益×20.315%\text{NISA節税効果} = \text{NISA口座の含み益} \times 20.315\%

つまり「もしこの利益が特定口座で出ていたら払っていたはずの税額」です。含み損の場合、節税効果は0円と表示します。

この計算ロジックには自動テストを整備しており、「年間360万円拠出したら積立枠120万+成長枠240万に正確に配分される」「生涯枠1,800万円を1円も超えない」「拠出額の合計が必ず投資元本と一致する」ことなどを毎回のリリース前に機械的に検証しています。

この計算にできないこと(限界)

シミュレーションには前提があり、現実を完全には再現できません。重要な限界を挙げます。

  • 想定値は将来を保証しない。 期待リターン・リスク・相関は過去データと公的機関の推計を参考にした想定値であり、将来の市場が同じ振る舞いをする保証はありません。
  • リターンの分布は単純化されている。 対数正規分布は標準的なモデルですが、現実の市場で稀に起こる暴落(ファットテール)を過小評価する傾向があります。暴落の影響を見たい場合は「高度な設定」のショックシナリオ機能を使ってください。
  • 税・コストは簡略化している。 リバランス時の売買額に0.1%の取引コストを想定している以外は、信託報酬・売買手数料・分配金課税を明示的にモデル化していません。また、NISA売却時の枠復活(簿価残高方式)は積立実験室では扱いません(取り崩しを含む計画はライフプラン実験室へ)。
  • 「年平均」表示は単純平均。 運用収益率の「年平均」は総収益率を年数で割った参考値で、幾何平均(CAGR)ではありません。
  • 結果は実行のたびに少し変わる。 乱数を使うため、同じ設定でも結果は毎回わずかにぶれます(1万回の平均なので、ぶれは小さくなります)。

出典


計算方法についての質問や誤りの指摘は、お問い合わせフォームからお寄せください。指摘を受けた誤りは確認のうえ修正し、このページに追記します。

本記事は情報提供・教育を目的としたものであり、特定の金融商品の推奨や投資助言ではありません。 投資判断はご自身の責任で行ってください。詳細は免責事項をご確認ください。