「卵をひとつのカゴに盛るな」——分散投資を勧める言葉として有名ですが、なぜ分けると安全なのか、どれくらい安全になるのかを数字で説明できる人は多くありません。
この記事では、分散効果の正体である相関係数を解説し、当サイトの計算エンジンで実際にどれだけリスクが減るかを測った結果を公開します。
直感を数式にすると「相関」になる
カゴを分けることが意味を持つのは、「片方のカゴを落としても、もう片方は無事かもしれない」からです。もし2つのカゴが紐で結ばれていて必ず一緒に落ちるなら、分ける意味はありません。
つまり分散投資の効果は、資産同士がどれだけ連動して動くかで決まります。この連動の度合いを数値化したものが相関係数です。
相関係数とは
相関係数 は から の値をとります。
| 相関係数 | 意味 |
|---|---|
| 完全に連動。一方が下がればもう一方も下がる | |
| 無関係。互いの値動きに関係がない | |
| 完全に逆連動。一方が下がるともう一方は上がる |
相関が より小さい資産を組み合わせると、値動きの一部が互いに打ち消し合います。これが分散効果の源泉です。
ポートフォリオのリスク公式
現代ポートフォリオ理論では、2つの資産を比率 、 で組み合わせたときのポートフォリオの分散(リスクの2乗)を次の式で計算します。
ここで 、 は各資産のリスク(標準偏差)、 は2資産の相関係数です。
注目すべきは最後の項です。相関 が 未満である限り、この項は「完全連動の場合」より小さくなり、ポートフォリオのリスクは各資産のリスクの単純な加重平均より必ず小さくなります。期待リターンは加重平均のままなので、この差の分だけ「リターンを犠牲にせず手に入るリスク削減」——いわばタダのリスク削減が生まれます。
実測: 相関を考慮すると、リスクはどれだけ減るか
理屈だけでは実感が湧かないので、当サイトの計算エンジンで実際に測ってみました。前提となる期待リターン・リスク・相関係数は、当サイト独自の想定値です(先進国株式 7.0%/18.0%、国内株式 6.0%/20.0%、国内債券 2.0%/3.0%、先進国債券ヘッジあり 3.0%/5.0%。相関は当サイトの想定相関行列による)。
「単純平均リスク」は相関を無視して各資産のリスクを加重平均しただけの値、「実際のリスク」は相関を考慮した計算値です。両者の差が分散効果の大きさです。
| 組み合わせ | 期待リターン | 実際のリスク(相関考慮) | 単純加重平均リスク | 単純平均との差 |
|---|---|---|---|---|
| 先進国株100% | 7.00% | 18.00% | 18.00% | ±0 |
| 国内債券100% | 2.00% | 3.00% | 3.00% | ±0 |
| 先進国株60% / 国内債券40% | 5.00% | 10.81% | 12.00% | −1.19ポイント |
| 株式のみ2資産(先進国60% / 国内40%) | 6.60% | 17.37% | 18.80% | −1.43ポイント |
| 4資産均等(先進国株 / 国内株 / 国内債 / 先進国債H 各25%) | 4.50% | 8.85% | 11.50% | −2.65ポイント |
実測値から読み取れること
期待リターンは削られない
表のとおり、期待リターンはどの組み合わせでも配分の加重平均そのままです。分散によって削られるのはリスクだけで、リターンは犠牲になりません。ここが「タダ」と呼べる部分です。
ただし注意点があります。たとえば先進国株60% / 国内債券40%の期待リターンが5.00%と、先進国株100%の7.00%より低いのは、低リスク・低リターンの資産を混ぜたこと自体の効果であり、分散効果とは別の話です。分散効果とは「その配分で本来覚悟すべきリスク(単純平均12.00%)より実際のリスク(10.81%)が小さい」という部分を指します。
「相関が低い組み合わせ」ほど効く
削減幅を「本来覚悟すべきだったリスク(単純平均)に対する割合」で見ると、相関の影響がはっきりします。
- 株式同士(先進国株×国内株。当サイト想定の相関は0.7): 18.80% → 17.37%で、削減率は約7.6%。似た値動きの資産を混ぜても、打ち消し合いは限定的です。
- 株式×債券(先進国株×国内債券。当サイト想定の相関はほぼ0): 12.00% → 10.81%で、削減率は約9.9%。相関が低い分、株式同士より効率よくリスクが打ち消されています。
- 4資産均等: 11.50% → 8.85%で、削減率は約23.0%と最大。値動きの異なる資産を幅広く組み合わせるほど、打ち消し合いの機会が増えるためです。
分散投資で大事なのは「銘柄数を増やすこと」ではなく、相関の低い資産クラスを組み合わせることだと分かります。なお、公的年金を運用するGPIFも、資産間の相関を推計したうえで国内外の株式・債券に分散する基本ポートフォリオを採用しています。
正直な注意点
- 相関は市場急落時に上昇する傾向が知られています。 平時は別々に動いていた資産が、暴落局面では一斉に下落することがあり、分散効果が想定より効かない場合があります。分散はリスクを減らす仕組みであって、損失を防ぐ保証ではありません。
- 上記の相関係数や期待リターン・リスクは当サイト独自の想定値です。 将来の市場が同じ相関で動く保証はありません。想定値の根拠と全数値はデータの透明性レポートで公開しています。
自分の配分の分散効果を確かめる
自分のポートフォリオでどの資産同士の相関が高いか・低いかは、ポートフォリオ分析の相関ヒートマップで確認できます。配分を変えたときのリスクの変化もその場で計算されるので、この記事の表と同じ実験を自分の配分で試せます。
計算エンジンの仕組み全体は積立実験室の計算方法で解説しています。
出典
- GPIF「基本ポートフォリオの考え方」 — 公的年金が相関の推計に基づく分散投資を行っている実例、および当サイト想定値の主要な参考資料
- 当サイトの想定値の全数値と出典: データの透明性レポート
- ポートフォリオのリスク計算の実装: 積立実験室の計算方法