積立投資を始めるとき、多くの人は「株式60% / 債券40%」のように目標配分を決めます。ところがこの配分、放置すると勝手にズレていきます。この記事では、ズレを元に戻す操作=リバランスがなぜ必要なのか、決定論的な計算例で確認します。
リバランスとは
リバランスとは、資産配分が目標からズレたとき、元の配分比率に戻す操作のことです。増えすぎた資産を売って減った資産を買う、あるいは新規の買付先を調整することで、ポートフォリオを当初の設計に引き戻します。
なぜ配分はズレるのか — 成長率の差によるドリフト
株式と債券では期待される成長率が違います。成長率の高い資産は、時間とともにポートフォリオの中で勝手に比率が増えていきます。この現象をドリフト(drift)と呼びます。
どれくらいズレるのか、単純化した計算で見てみましょう。当サイト独自の想定値(先進国株式: 期待リターン7.0%・リスク18.0%、国内債券: 期待リターン2.0%・リスク3.0%、相関0.05)を使い、毎年きっかり株式が7%、債券が2%で成長し続けたと仮定した場合、先進国株60% / 国内債40%で始めて一度も調整しなかったときの配分は次のように変化します。
| 経過年数 | 先進国株式 | 国内債券 |
|---|---|---|
| 開始時 | 60.0% | 40.0% |
| 5年後 | 65.6% | 34.4% |
| 10年後 | 70.8% | 29.2% |
| 15年後 | 75.5% | 24.5% |
| 20年後 | 79.6% | 20.4% |
これはあくまで「毎年きっかり7% / 2%成長」という単純化した仮定での計算例で、実際の市場は上下にぶれます。それでも方向性は明確です。何もしなければ、株式の比率は着実に増えていくのです。20年後にはほぼ「80/20」のポートフォリオになっています。
ズレると何が問題か — 意図せずリスクを取りすぎる
「株式が増えるならいいことでは?」と思うかもしれません。問題はリターンではなくリスクです。
当サイトの計算エンジン(相関を考慮したポートフォリオ標準偏差。計算式は計算方法の解説参照)で、上記の想定値を使って比べると:
| 配分 | 期待リターン | リスク(標準偏差) |
|---|---|---|
| 株60% / 債40% | 5.00% | 10.81% |
| 株80% / 債20% | 6.00% | 14.38% |
20年放置してほぼ80/20になったポートフォリオのリスクは、当初の10.81%から約14.4%へ、約1.33倍に膨らんでいます。
これは「自分で選んだ覚えのないリスク水準」で運用している状態です。60/40を選んだのは「この程度の値動きなら耐えられる」と判断したからのはず。放置されたポートフォリオでは、暴落が来たときの下落幅が当初の想定より大きくなり、耐えられずに狼狽売りしてしまう——という事態を招きかねません。
リバランスの方法 — 定期型と乖離幅型
実施タイミングの決め方には、大きく2つの方式があります。
- 定期型: 年1回など、あらかじめ決めた頻度で機械的に実施する。判断の余地がなく続けやすいのが利点。
- 乖離幅型: 「目標から±5%乖離したら実施」のように、ズレの大きさで判断する。ズレが小さいうちは何もしないため、無駄な売買を減らせる。
公的年金を運用するGPIFも、基本ポートフォリオに資産ごとの乖離許容幅を設けて管理しています(GPIF「基本ポートフォリオの考え方」)。乖離を前提に許容範囲を決めて管理するという考え方は、個人にも参考になります。
戻し方にも選択肢があります。増えた資産を売却して減った資産を買う方法のほか、新規の買付だけで比率を戻す方法(いわゆるノーセルリバランス)です。新NISAの文脈では、売却よりも新規買付で戻すほうが非課税枠を消費し直さずに済む、という点でノーセルリバランスが語られることが多くあります。どちらが適切かは、積立額と資産残高の比率や口座の種類によって変わります。
注意点を正直に
- リバランスはリターンを高める魔法ではありません。 目的はあくまで「リスクを設計した水準に保つ」こと、つまりリスク管理の手段です。
- 課税口座での売却には税コストが発生します。 特定口座で値上がりした資産を売れば、その利益に課税されます。売却を伴うリバランスは、このコストも考慮して判断する必要があります。
- 当サイトのシミュレーションとの関係を開示します。 積立実験室は資産ごとの値動きを個別にシミュレーションしており、リバランス設定をオフにすると本記事で説明したドリフトがそのまま結果に反映されます。オンにすると、設定した頻度・乖離幅・調整割合に従って目標配分へ戻します(このとき売買額の0.1%を取引コストとして控除する想定を置いています)。
ツールで確かめる
- 積立実験室の「高度な設定」でリバランスのオン・オフを切り替えると、結果の分布がどう変わるかを実験できます。リバランスありのほうが分布の幅(上振れと下振れの差)が狭くなるはずです。
- ライフプラン実験室では、リバランス設定が資産別の推移に反映されます。リバランスの有無で資産構成がどう変わるかを確認できます。
- ポートフォリオ分析では、いまの配分の期待リターンとリスクを確認できます。「知らないうちにリスクが育っていないか」の点検にお使いください。
出典
- GPIF「基本ポートフォリオの考え方」 — 乖離許容幅を設けてポートフォリオを管理する公的な実例
- データの透明性レポート — 本記事で使用した期待リターン・リスク・相関の想定値(当サイト独自の想定値)の出典
- 積立実験室の計算方法 — ポートフォリオのリスク計算式の詳細