手元にまとまったお金があるとき、「一括で投資するか、毎月に分けて積み立てるか」は投資の定番の悩みです。この記事では、当サイトの積立実験室を実際に使って、元手360万円を10年運用する2つのやり方を比較実験した結果を報告します。
2026年8月15日の訂正: 公開時のシミュレーターは、投資信託の信託報酬(保有中ずっとかかる年間コスト)を計算に含めていませんでした。含めるように修正したため、本記事の資産額は公開時よりおおむね1〜2%下がっています。記事の結論は変わっていません。
2026年8月17日の更新: 先進国株式の想定リスク(値動きの荒さ)を、GPIF が公表している外国株式の推計値に合わせて 18.0%→20.35% に引き上げました。従来は期待リターンを GPIF の想定レンジの上寄りに置きながらリスクだけ小さく見積もっており、楽観が二重にかかっていたためです。本記事の数値もこれに合わせて更新されています(中央値は下がり、分布の幅は広がる方向)。結論は変わっていません。
これは実験ノートです。数値はすべて実際にシミュレーターを動かして得た実測値であり、モンテカルロ法(乱数を使った1万回の試行)による結果です。
まず結論のグラフです。10年後の資産額を「下位10%・中央値・期待値・上位10%」の4点で見ると、期待値・中央値では一括投資が上回る一方、分布の幅(上位と下位の差)は一括投資のほうが大きい——つまり期待値の高さとブレの小ささのトレードオフがはっきり出ています。以下、条件と考察を順に見ていきます。
実験の背景
ボーナス、退職金、相続——まとまった資金が手に入ったとき、多くの人が迷います。
- 一括投資: 今すぐ全額を市場に入れる
- 毎月積立: 時間を分けて少しずつ入れる(いわゆるドルコスト平均法)
「高値づかみが怖いから分割したい」という直感と、「早く入れたほうが長く運用できる」という理屈がぶつかる場面です。どちらの効果がどの程度なのか、シミュレーションで分布ごと見てみます。
実験条件
投資する元本の総額はどちらも360万円で揃え、入れ方だけを変えます。
| 項目 | 設定内容 |
|---|---|
| 元手 | 360万円 |
| 運用期間 | 10年 |
| 資産配分 | 先進国株式 60% / 国内債券 40% |
| 口座 | 新NISA |
| 想定値 | 先進国株式: 期待リターン7.0%・リスク20.35%、国内債券: 2.0%・3.0%、相関 −0.05 |
| リバランス | なし(資産ごとの値動きの差で配分は自然にドリフトする) |
| 試行回数 | 1万回のモンテカルロ・シミュレーション |
| ケース1 | 一括投資: 初期投資360万円・積立なし |
| ケース2 | 毎月積立: 初期投資0円・毎月3万円 × 10年 = 360万円 |
期待リターン・リスク・相関は、GPIFの公表資料などを参考にした当サイト独自の想定値です(数値と根拠はデータの透明性レポートで公開しています)。計算の仕組み自体は計算方法の解説をご覧ください。
結果
10年後の資産額の分布は次の通りでした。
| 10年後の資産額 | ケース1: 一括投資 | ケース2: 毎月積立 |
|---|---|---|
| 上位10% | 974万円 | 644万円 |
| 期待値 | 599万円 | 469万円 |
| 中央値 | 520万円 | 440万円 |
| 下位10% | 324万円 | 332万円 |
上の表とグラフは同じ実験結果です。モンテカルロ法のため、設定を変えて手元で再実行すると末尾の桁はわずかに変わります。
自分の数字で試す
実験本文の数値は固定です。ここで変えても記事の結論は変わりません。「記事の前提」と「あなたの条件」を並べて表示します。
| 項目 | 記事の前提 | あなたの条件 |
|---|---|---|
| 一括の期待値 | 599万円 | 599万円 |
| 積立の期待値 | 469万円 | 469万円 |
| 一括−積立の差 | 130万円 | 130万円 |
資産配分(先進国株60%/国内債40%)は記事と同じ。あなたの条件は 4,000 回の簡易計算のため、本文(1万回)と末尾がわずかにずれることがあります。
元手や運用年数を自分の規模に置き換えると、期待値がどう変わるかを上のボックスで試せます(本文の数値は360万円・10年のまま固定です)。
考察
期待値・中央値とも一括投資が上回った
期待値で130万円、中央値で79万円、一括投資が毎月積立を上回りました。理由はシンプルで、積立は資金が市場に入っている期間が短いからです。毎月積立では、最後の1万円が市場にいるのは最終月だけ。元本の平均滞在期間はおよそ半分になります。期待リターンがプラスという想定を置く限り、市場の外で待機している時間はそのまま機会損失として効いてきます。
ただし、一括投資はブレも大きい
分布の幅を見てください。上位10%と下位10%の差は、一括投資が649万円、毎月積立が312万円。一括投資は結果のばらつきが約2倍です。運が良ければ大きく増え、運が悪ければ下振れも深い。
積立の「平準化」効果は分布の狭さに現れる
毎月積立は、高いときにも安いときにも同じ金額で買い続けるため、買値が平準化され、結果のばらつきが小さくなります。下位10%を見ると、一括324万円に対し積立332万円と、着地点はほぼ同じ。不調シナリオでの下限はほとんど変わらないのに、好調シナリオの伸びしろ(上位10%の差)を手放している——これが積立側のトレードオフの正体だと読めます。
つまりこの実験が示すのは「一括が正解」ではなく、期待値を取るか、ブレの小ささを取るかというリスク許容度の問題だということです。途中の下落で夜眠れなくなる人にとって、分布の狭さには十分な価値があります。
この実験の限界
実験ノートとして、この比較にできていないことを正直に書きます。
- 待機資金の扱いを無視している。 毎月積立のケースでは、まだ投資していない現金(初年度なら300万円以上)が手元に残っているはずですが、その現金は比較に含めていません。待機資金を預金利息付きで評価すれば、積立側の実質的な差はやや縮まります。
- 10年後の一時点しか見ていない。 途中経過、特に「運用初期に暴落が来たときの含み損の深さ」は今回の集計対象外です。一括投資は初日に全額さらされるため、途中の含み損は積立より深くなりえます。
- 想定値は将来を保証しない。 期待リターン7.0%はあくまで当サイトの想定値です。実際の市場がこの通りに振る舞う保証はどこにもなく、期待リターンの想定を変えれば結論の差も変わります。
- この結論は、シミュレーターが置いている仮定からある程度は導かれる。 この計算は「各月のリターンは互いに独立で、平均すると右肩上がり」という仮定を置いています。この仮定のもとでは、市場に長くさらしたほうが期待値で有利になるのは数学的な帰結でもあり、実験で初めて分かったことではありません。結論の向き自体は実際の市場データを使った研究とも一致していますが、本記事の数値はあくまでこの仮定のうえでの大きさだと受け取ってください。なお、ドルコスト平均法の「安いときに多く買える」効果を検証するには相場の平均回帰を組み込んだモデルが必要で、このシミュレーターでは扱えません。
- そもそも比較が成立しない人も多い。 毎月の給料から積み立てる場合、手元にまとまった資金がないので一括投資という選択肢自体が存在しません。この比較が意味を持つのは、すでにまとまった資金が手元にある場合だけです。
あなたの条件で再実験してください
この実験の設定はひとつの例にすぎません。元手の金額、期間、資産配分、想定リターンを変えれば結果は変わります。積立実験室で「初期投資額だけ」「毎月積立だけ」の2パターンを自分の条件で回せば、この記事と同じ実験を数分で再現・改変できます。
結果を鵜呑みにせず、条件を変えて自分で確かめられること。この再現可能性が、当サイトの実験レポートの特徴です。
出典
- データの透明性レポート — 本実験で使用した期待リターン・リスク・相関係数(当サイト独自の想定値)とその根拠
- 積立実験室の計算方法 — モンテカルロ・シミュレーションの仕組み
- GPIF「基本ポートフォリオの考え方」 — 当サイト想定値の主要な参考資料